「パイナップルパーティーだ!」
昨年の夏、両手に沢山の果物を抱えて、安部川康幸(あべかわ・やすゆき)さん、京子(けいこ)さんご夫妻がわが家に訪ねて来てくださいました。その手には、パイナップルをはじめメロン、スイカ、パッションフルーツ…!「ええ~!」と驚いてる間に、「台所借りるよ!」と豪快にフルーツをカットしてくださったのでした。




移住のきっかけ
安部川さんご夫妻が南大隅町に訪れたのは2019年の夏のこと。それまでは、生まれ育った横浜の地で、康幸さんはトレーラーの運転手、京子さんは美容師さんとして過ごしていました。以前より、歳を重ねたら田舎で暮らしたいという思いがあったご夫妻。おふたりの仕事を変えたいというタイミングが重なったこと、また、「40代のうちに移住して、仕事やコミュニティを自分たちでつくっていきたい」との思いから移住を決意。「暮らすなら、暖かい南の方で」と、夫婦二人・軽自動車一台で、移住先を求めて旅に出たのでした。

南を目指して旅するご夫妻は、各地の自治体が運営する〈お試し住宅〉に滞在しながら南国の田舎を巡ります。その中で出会った仕事が農業でした。
「はじめの頃は、これまでの経験を生かして働きながら暮らせればと思っていたけど、新しいことに挑戦してみたいという思いもあって」と京子さん。
元々、もくもくと何かをすることが好きだったので、農業もいいかなと思うようになりました。でもやってみると、何がどのくらい必要かなど、自分で考えることがいっぱい!旦那が数字や計算が得意だから助かりました」とにっこり。

南国果樹農家になる
「作るのなら、果樹がいい!」と、現在パッションフルーツを中心に、パイナップル、メロン、スイカなどの栽培を手がける安部川さんご夫妻。
2019年に就農したご夫妻は、その翌年初めての収穫を迎え、今年3年目を迎えました。できあがった作物は、農協への出荷とECサイトを活用した直販の二刀流で販売。「直販することで、購入していただいた方の声が直接聞けるのが嬉しい。この前は、『とってもおいしかったです』って電話がありました」と嬉しそうに話してくださいました。
また、お菓子作りもされる京子さん。時には、収穫した果物を加工し、スイーツやジュースを手作り。なかでも、練乳入りの氷にパッションフルーツ果汁の手作りシロップをかけた台湾風かき氷は絶品!地元の子どもたちはもちろん、大人の皆さんも大好きな一品です。


新規就農をするということ
栽培に当たっては、「何がどうなっているのか徹底的につきとめます」と康幸さんの力強い言葉。わからないことは、周りの人にお聞きする、しっかりと自分で調べる。「だってわからないんだもの」!
これまで土に触れたことがなく、草がグングン生えてくることも知らなかったおふたり。ハウスはどうやって借りるのか、ビニールはどうやって張るのか… 何もかもが手探りでした。
そうした状況の中で助けられたのは、先輩農家さんとのつながり。作業の段取りや使わなくなった資材の提供、地元の皆さんとのつなぎ役など、真摯に向き合って下さる姿に、「本当にお世話になった」と話します。
また、人手と技術を要するビニール張りをはじめ、年間を通して手伝いに来て下った沢山の先輩農家さんたちに「本当に助けられた」と当時のことを教えて下さいました。

一方で、新規就農における金銭面では、多額の資金を要するのも現実。ご夫妻は就農当初、自己資金と合わせて、町の新規就農者への補助事業を活用。また「できることは自分で」という姿勢で、ハウスの修繕等にもあたります。農家として年々パワーアップされていく姿が、本当に逞しい安部川さんご夫妻です。

安部川さんご夫妻の現在
3年目を迎えた今年は、昨年と比べどうしたら量を収穫できるか、収穫の時期をずらしてみるのはどうか、ハウスの一角で試験的に栽培方法を変えてみるなど、そこには栽培への探求が尽きないおふたりの姿がありました。
そうした日々の農作業と並行して進める硬化プラスチック製ビニールハウスの修繕作業。「休みはないぞ~」と、とってもお忙しそうながら、「農場まで来てくれることがありがたい」と、来客があるときはその時間を大切にする、夜の集まりには積極的に参加する、そして楽しくお酒を飲む。そんな一日一日を大切にされていらっしゃいます。

移住をして
移住して良かったことはありますか、と尋ねると、「夫婦2人で過ごす時間が増えました」と京子さん。それまでは、京子さんが夜遅く帰宅し、その数時間後、康幸さんが朝早くに家を出る、休日も合わせることは難しかったそう。しっかり者の康幸さんと、穏やかさが素敵な京子さん、南大隅町では、二人でひとつの安部川さんご夫妻。おふたりそろって色んな会に顔を出して下さいます。
そんなお二人が口をそろえておっしゃるのが、「人に恵まれました」という言葉。3年が経ち、すっかり町に馴染まれたご夫妻の言葉を聞きながら、目の前の人と真っ直ぐに向き合われる優しいおふたりだからこその人徳だと感じるのでした。
最後に、「移住と新規就農は、簡単な決断ではないですが、そこで新しい経験が得られることもあります。人生、楽しいことが全て。楽しいことが大前提」とご夫妻。
お二人がこの町の暮らしを楽しんでおられることを知り、なんだか私も楽しい気持ちになった取材でした。康幸さん、京子さん、ありがとうございました!
