南大隅町では2014年から始まった、「地域おこし協力隊」制度。
観光・農業・映像制作など、これまでも多くのメンバーが南大隅町内で活動を展開してきました。
役場の各課に席を置いて活動するパターンが多かった南大隅の協力隊活動ですが、近年はNPO・公民館所属の協力隊受け入れも始まっており、新たな可能性が模索されています。
本記事では、2024年4月に行われた「地域おこし協力隊 活動報告会」での発表内容をご紹介します!
南大隅の地域おこし協力隊の現状をお伝えしながら、これからの地域づくりのあり方を考える契機となれば幸いです。
【イベント基本情報】
・イベント名:「地域おこし協力隊活動報告会」
・趣旨:現役地域おこし協力隊の令和5年度の活動を振り返りながら、日頃の思いや今後の展望を語る
・日時:2024年4月26日(金)14:00〜15:30
・場所:南大隅町役場 3階 大会議室
・主催:NPO法人 風と土の学び舎
・協力:南大隅町役場 企画観光課・経済課
・来場者:25〜30名ほど
◆発表メンバー
①秋山大樹さん(経済課所属)
・志布志市出身
・農業分野
・2023年7月着任:活動1年目
・ミッション:佐多地区大泊の町営ハウスにて、パッションフルーツ・アボカド・パインアップルといった熱帯果樹栽培の研修を行い、将来的な就農に繋げる
・主な活動拠点:大泊のハウス
②福元信一郎さん(企画観光課所属、受け入れ団体:辺塚公民館)
・鹿児島市出身
・農業・商品開発・移住定住・情報発信など多分野
・2021年9月着任:活動3年目(コロナ禍につき1年延長予定)
・ミッション:幅広い活動を通した、辺塚地域の活性化と自身の生業づくり
・主な活動拠点:辺塚地域
③原田志穂子さん(企画観光課所属、受け入れ団体:NPO法人 風と土の学び舎)
・鹿児島市出身
・都市農村交流分野
・2023年4月着任:活動1年目
・ミッション:地域の資源を活かし、地域内の個人・団体と連携を図りながら、得意分野を活かして都市と農村をつなぐ
・主な活動拠点:町内全域
※2024年11月時点:このほかにも熱帯果樹栽培・農業公社運営の分野で、それぞれ1名が活動しています。
◆未経験からチャレンジ!熱帯果樹栽培
トップバッターは秋山大樹(あきやま・だいじゅ)さん。
2023年の7月から南大隅の協力隊に着任し、 イベント時点で活動から半年ほど経ったころでした。
地域おこし協力隊になる前は、東京の上場企業でホテルマンを経験した秋山さん。「外国人のメンバーも多く、毎日が刺激的な日々でした。管理職になりやりがいも大きかったのですが、コロナ禍でお客様がめっきり減って、『このままホテル業界に残っていていいのか』という気持ちが強くなりました。地域でやりたいことに挑戦してみようという気持ちが高まり、退職してさまざまな地域を回ることになったんです」と懐かしそうに語ります。
そして出会ったのが、南大隅町でした。「初めて訪れた時に食べたスナックパインの味に感動して、『自分も熱帯果樹栽培をやりたい!』と心に決めました。現在は佐多の大泊(おおどまり)の町営ハウスで、パインアップル・アボカド・パッションフルーツ栽培の研修を行っています。農業は全くの未経験でしたが、役場の技術指導員である岩下さんの教えを受けながら、少しずつできることが増えてきました」と笑顔で話します。
発表では各作物の品種の違い、アボカド栽培における客土の効果、自動草刈機のありがたさなど、農業未経験の状態から力強く前進する様子がユーモラスに語られ、笑いが絶えない時間となりました。
「2024年5月には、『株式会社Osumi Fruits』として法人登記が完了し、独立に向けた土台を作ることができました。松下幸之助の言葉にもあるとおり『企業は会社の公器』です。地域に貢献し、南大隅の雇用を確保しながら、熱帯果樹の魅力をお届けするベースになれればいいなと思います」と力強く語りました。
◆「田舎は外国と同じ」地域を拠点とする大学生の視点
次の発表者は福元信一郎(ふくもと・しんいちろう)さん。
鹿児島市出身で、2021年に協力隊に着任。所属は企画観光課ですが、受け入れ先は辺塚地域の校区公民館という、町内でも初のパターンで活動しています。
ミッションは、幅広い取り組みによる辺塚地域の活性化です。
南大隅町内でも特に地理的条件が厳しく、高齢化がトップクラスに進んだ辺塚地区。しかし、幻の作物「辺塚だいだい」やイセエビ漁、いくつもの滝が点在する広大な山々など、観光地化こそされていないものの計り知れない魅力を秘めた地域です。こうした分野に自ら入り込みながら、情報発信しつつ人を呼び込み、地域活性化を目指すのが福元さんの活動です。
「辺塚の皆さんはあたたかい方ばかりで、私ものびのび活動させてもらっています。卒業後も辺塚を拠点に活動していくつもりです」と笑顔で語ります。
3年目となる令和5年度の活動は、辺塚小学校の整備、海の廃材を利用した地域の小学生とのイカダづくり、辺塚だいだいの収穫作業などやはり多岐に渡ります。しかし、特筆すべきポイントはなんといっても鹿児島大学の学生との関わりでしょう。
「鹿児島大学の農学部を中心に、授業の一環で辺塚を訪れてくれる機会がありました。そこから辺塚の魅力にのめり込み、プライベートで何度も来てくれる子もたくさん出てきています。今では鹿大に通いながら辺塚に家を借りて、拠点まで作った子もいるぐらいです!」と笑顔で語ります。
大学生にとって、辺塚はまさに「外国」です。話す言葉も文化も違う。買い物ができる場所すらほとんどない。でも、だからこそ目に映るもの全てが新鮮で、刺激的なのです。地元の皆さんと辺塚の山に入って秘境と言われる滝を巡ったり、海辺でのびのびと釣りをしたりと、地域のディープな魅力を思いっきり味わっています。
協力隊活動は最大3年間が基本ですが、コロナ期間中は満足に活動できなかったという悔しさもあり、 福元さんは活動の1年延長を決意しました。「これまでの活動で、辺塚に来る人を『0→1』にすることはできました。活動最終年度の今年は『1→10』を目指して、辺塚だいだいの商品化・移動販売車の準備・辺塚地域でのガイド業の確立を進めたいと思います」と、決意を新たにしました。
◆常識の中で、魅力が埋もれてしまうことのない社会に
最後の発表者は、原田志穂子(はらだ・しほこ)さん。
鹿児島市出身で、2023 年から協力隊に着任。所属は企画観光課ですが、受け入れ先は「NPO 法人 風と土の学び舎」という、町内初のパターンで活動しています。「活動が始まって2ヶ月 は、NPO 所属の農家の方々のもとを回って農業を体験しました。葉タバコ・バラ・ブロイラー など初めて触れるものばかりで、農家の皆さんともたくさんお話しすることができ、地域を知るとても刺激的な体験でした」と原田さんは話します。
そんな原田さんのミッションは「都市農村交流」。
自分の得意分野を活かして都市と農村をつなぎ、最終的に自らの生業づくりに繋げるのが目標です。
原田さんは協力隊着任前、外国人に日本語を教える仕事をしていました。山口県の日本語学校で働いていたところ、出身地である鹿児島で新しく日本語学校を立ち上げるという話があり、そちらの取り組みに参加することになりました。
ですが、まさにそのタイミングでコロナ禍が始まり、立ち上げに向けた活動が完全にストップすることに…。これはやりたいことをするチャンス! と、鹿児島市にある『iBS 外語学院』に入学することを決めました。
「iBS 外語学院には、全国から個性豊かな仲間たちが集まっていました。中学校を卒業したばかりの 15 歳の子や、小学校の校長先生として定年を迎えてから入学した仲間もいましたね」と当時を振り返ります。
老若男女が集うiBSでは、生徒たちの抱えてきた悩みも多岐にわたります。不登校、精神疾患、難聴、セクシャリティ、家庭環境…。クラスメイトと向き合うなかで、それぞれの想いから学ぶことがたくさんあったそうです。
「世の中で生きづらさを抱える人がこんなにたくさんいるんだ…と気づくとともに、こんなに魅力溢れる人たちが“あたりまえ”の中で自信を失くし、能力を発揮しきれない社会はもったいない! と考えるようになりました。」
そんな学校生活を送ること1年。iBSの卒業後はコロナ禍も落ち着きを見せ、当初予定していた日本語教育機関の新設に向けた活動が始まりました。立ち上げの際は、地域住民の方々からさまざまな意見があったそうです。
「『寮生活で出たゴミは地域住民と同じ場所には出さないでほしい』『施設の周りに壁を作ってほしい』といった声が、設立前から出ていました。社会が抱える『知らないもの』への恐怖と対峙する機会がたくさんありましたね」と当時を振り返ります。
そんな活動の中で、原田さんが痛感したのが、「知ってもらう」ことの大切さでした。文化的な理解を促進するべく、行政への働きかけを行うとともに、学校・企業で日本人を対象にした講義を行う機会も増えてきました。
「ちょうどそのころ『日本手話』に魅了され、手話奉仕員養成講座に通い始めました。ご自身もろう者である手話の先生は、1歩外に出ると大変なんだよ、とお話ししてくれました。病院で何時間も待っていた話や、社会の中でこんな工夫があるといい、というお話を聞きながら、やはりそこでも『知ること』の大切さを痛感しました。」
こうして「日本語教育だけでなく、もっと幅を広げた活動がしたい!」という想いを抱くようになった原田さんは、南大隅町の地域おこし協力隊に応募することを決めたのでした。
原田さんの活動は、今年が初年度。まずは地域の方々と幅広く関わり、視野を広げていくのが目標です。 令和 5 年度は、神山小学校での交流活動の企画、「からすたろうの学び家」での子どもの夕食・入浴支援、地域住民に向けた「やさしい日本語」講座など、多岐にわたる活動を展開してきました。
そんな中、特に印象的だったのが、町内最大の農福連携施設「花の木農場」での体験でした。
「初めてのお茶畑での農業研修で、作業が遅く失敗もする私でしたが、 お仕事をご一緒した利用者さんたちはイライラすることなく、黙ってフォローしてくれました。それぞれが出来ることを一生懸命に、穏やかに働いている雰囲気が素敵で、私も花の木農場で過ごす時間が大好きになりました。」その後も原田さんは、利用者さんたちと一緒に買い物に行ったり、ゴスペル練習に参加したりと、研修後も足繁く花の木に通っています。
今後はこうした経験を活かし、多様な人が出入りし、お互いを知ることができる「ごちゃまぜカフェ」を作ることを目標として掲げています。
協力隊活動は、未来への可能性に徒手空拳で挑みながら、協力隊と地域が共に新たな一歩を踏み出す場です。こうした幅広い活動が実を結ぶためには、まずは地域の皆さんがその想いや活動内容を知り、手を執っていただくことが不可欠です。ますます盛り上がりを見せる南大隅の地域おこし協力隊のこれからの形を、ぜひ見守っていただければ幸いです。
(文章:大杉祐輔、写真:大杉祐輔・中川夏帆、写真提供:福元信一郎・秋山大樹・原田志穂子)