南大隅町で「暮らす」 南大隅町で「働く」

南大隅の暮らしを楽しむ(土橋佐知子さん/飲んかた料理人)

南大隅町佐多・郡。佐多・伊座敷からさらに一山越え、太平洋を望む地域です。郡の地で暮らしながら、町内各地で飲んかた料理やこだわりのコーヒーをふるまってくださる〈つっちーさん〉こと土橋佐知子さんにお話を伺いました。

◆移住に至った経緯

あ:「つっちーさんが南大隅町に移住してきたのは、いつ頃ですか?」

つ:「2022年の秋頃でした。長く広島に住んでいましたが、仕事を定年して移住してきました。出身は鹿児島市ですが、ご縁あって佐多・郡に住むことになりました。自分が大隅半島に住むとは思ってもみなかったです」。

あ:「移住されて約1年半ですね。つっちーさんが移住に至った経緯を教えてください」。

つ:「親父が選んだ土地だったのよね。母が亡くなって、父は鹿児島市内の家に一人暮らし。会社を定年して60代で、まだまだ若くて。親父は顔が広くて、県内離島各地に友人がいて、『どこかに移住したい』と言い始めたんです。私は『お願いだから陸続きにして』と。そして親父が選んだ土地が、南大隅町佐多・郡の浜尻でした。

親父は、昭和40年代に、よく郡まで釣りに来ていたみたいで。その時に会っていた船頭さんの家が空いているからと、住むことになりました。移住前に一緒に見に来ましたが、市内からここまでの距離が恐ろしく遠くて(笑)。お借りする家を見に行くと、すぐに住める状態ではありませんでした。でも親父には色んな仲間がいて、週末ごとに手を入れて協力してくれて、友人たちが家に住めるようにして下さったんです」。

あ:「大変だったんですね…!そうして暮らし始めて、お父さんはどんな郡生活をされていたんですか?」

つ:「浜尻生活が始まると、カマスを釣りに行ったり、ブリ漁船に乗せてもらったり、釣り三昧。盛んに鹿児島市内の友人が泊まりに来たりと、楽しんでいました。

もちろん、地元の人たちとも賑やかに過ごしていて。今、私が親しくしている郡の地元の皆さんは、親父が居た時からの飲み仲間です。すごく良くしてもらって、親父のことを好きでいてくれて。その延長で今、私も皆さんとつながっています。親父は『俺のおかげや』なんて言っていました。足腰が弱って親父が外に出れなくなったら、皆が家に来てくれてました。親父は、皆がワイワイと賑やかにしてくれるのが、本当にすごく好きだったんです。

郡のことを、私は自然に『親父が選んだ土地だから、帰ろう』って思ってました。いい土地だし、いい人たちばかり。県外で仕事をしていて、定年したら郡に住むと決めて、楽しみにしていました。何の迷いもなく、帰るのはここって思ってました。今は、郡に暮らしながら本当に沢山の人に出会って。このタイミングが必然だったんだろうけど、もっと早く帰ってきてたらと思ったりするくらいです。

◆飲んかた料理とこだわりのコーヒー

あ:「今やいろんな宴会のシェフとしてご活躍のつっちーさんですが、お料理とコーヒーについて、お話を聞かせて頂けますか」。

つ:「今は時々、飲んかた(鹿児島で言う飲み会や宴会のこと)の料理作りをしています。内容は和洋折衷というか、酒の肴というか、大皿の宴会料理。どんな人が来るか、お酒は飲むか飲まないか、みんなの様子を見ながら、これ食べたいかなとか、考えて作るのが好きです」。

あ:「その時その人に合わせたオーダーメイド感がめちゃくちゃ素敵ですよね」

つ:「お料理にはなるべく地元の旬のものを使いたいって思ってます。南大隅町は、野菜がとっても豊富。ミニトマト、スナップエンドウ、ふだん草、じゃがいも、セロリ… 普段から頂く野菜の量が、本当にすごくて。無人市が開けるかなってくらい、旬の野菜祭りになります。本当に幸せだなと思います。

飲食店は、効率と手間を考えて固定メニューを出すのが定番だと思うけど、私はそんな風にはできない。『そのときの食材で、おまかせ定食』しかできない。ノートに今ある野菜を書いて、何がいいかなってメニューを考えて書き留めていきます。きんぴら系とか味噌系ばっかりだったら飽きるかな、チーズ系も欲しいかな、とか。自分が飲んだ時に食べたいなと思うやつですけどね(笑)。

お料理は、YouTubeなど参考にしています。料理研究家の方のYouTubeはずっと見てられますね。最近よく見ているのは、『元気ママキッチン』。てげてげ(鹿児島で言う「たいがい」、「だいたい」、「おおよそ」)に料理を作るんです。だって土地によって醤油も味噌も味が違う。だから、計って作るなんてできない。私、そういうてげてげなのが大好きなんです。ほかにも色んな人のを参考にしてますよ。

でもいつもやっぱり思うのは、この町は、地元の塩を使った塩むすびと、手作り味噌のみそ汁とつけものひとつあったらいいよねってこと。これが美味しい。最高です」。

あ:「つっちーさんのお料理、いつも本当に美味しく頂いています。ありがとうございます。こちらに移住して来る前も、お料理をされていたんですか?」

つ:「南大隅に来るまでの会社員時代は、ふだん出会う人たちって限られていて、ちょっとはみ出ても趣味の友達くらいでした。いつも同じメンバーで女子会をして、その時の料理は私の役目で、みんなが喜んでくれて。たまに仲間つながりでゲストが来るけど、それ以上はなかったです。でも、そのときの料理の作り方と今はぜんぜんちがう。ここは、それ以上がある。いろんな人が来て、初めましての人のために宴会料理を作って、人の輪が広がっていく。それで、『またあの味が食べたかったんです』って言って来てくれたり、再会するのもすごく嬉しい。『また来ていいですか』とか『つっちーさんの料理だったら何でも食べたいです』と連絡がくるのも嬉しいです」。

つっちーさんが作るお料理は、小麦粉を使わない、米粉等を使ったグルテンフリー料理。おかずやスイーツの数々は、ご自身が小麦粉アレルギーを持っているつっちーさんが研究を重ねてきた品々です。

そして、そんなお料理の後に出てくるのが、つっちーさんこだわりのコーヒー。

あ:「つっちーさんが淹れて下さるコーヒーについても、くわしく教えていただけますか」

つ:「前から、郡に帰った時にコーヒーとか出せたらいいなと漠然と思ってたんです。それでせっかくなら安心安全なコーヒーが飲めたらなと。そしたら同じ職場の女の子が、コーヒーを淹れる講習に連れて行ってくれて。

そのコーヒーというのが、焙煎する前に生豆から欠点豆を取り除くハンドピッキングをして、50℃のお湯洗いをして焙煎するというこだわりのコーヒーで。焙煎後もちゃんと変な豆を除けていて。そうした手法を丁寧に大切にするコーヒーだったんです。

コーヒーは、好みがあると思うのですが、皆さんにけっこう美味しいって言ってもらえて嬉しいなと。このコーヒー、和菓子屋や薩摩の郷土菓子にも合うんですよ。酸味がないすっきりした後味で、お茶代わりに何杯でも飲める。ぬるくても全然おいしいし、コーヒーゼリーを作ってバニラアイスを添えても美味しい。ぜひ一度飲んでみてほしいです」。

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◆「食」に携わる

つ:「ジャンルは全然違うけど、最近はパートさんとしてグループホームでもご飯を作っています。年配の方が食べやすいように、お料理をクタクタになるまで煮て、ミキサーにかけたり、切り刻んだり。同じ「食」だけど全然ちがう。だけど、『美味しく食べてもらいたい』という気持ちは変わらない。ちょっと痴呆が入ってきているお年寄りでも、ご飯は美味しい美味しいって言いながら食べてくれるんです。

大切にしているのは、料理を温かく出してあげること。ご飯もお汁も可能な限り温めて出すようにしています。とろみ食の方への熱々はNGですけどね。すると、おばあちゃんたちが『うんめ(うまい)』って言いながら食べてくれるんです。同じ「食」でも、色んな気づきがある。

人は食べなきゃ生きていけないから、食って本当に大事だなって思います。それと南大隅町のおじいちゃんおばあちゃんたちはきっと美味しい魚や野菜を食べて育ってきた方たちなんだろうなと。だからこそ、美味しく出してあげたいなって思います。

例えば、肉に塩こうじをつけてやわらかくしてみたり、ヨーグルトにさつまいもとリンゴを煮たのを混ぜてあげたりとか。喜んでくれるんです。色々なことをして食べてくれるお年寄りの反応もとても楽しいです。

だからやっぱり、私は、食べること・料理することが好きなんだなと。そのことにめぐりあえてよかった。おかげさまですごく輪が広がったなと思います」。

◆佐多・郡の暮らし

あ:「最後に、佐多・郡の好きなところを教えてください」

つ:「郡は娯楽がないから、だいたい各家に一台カラオケがあって、昔から各家が宴会場でした。何かしちゃあ打ち上げして飲んかたして。ちょっとのことでも打ち上げして飲んかたして(笑)。私も基本的に飲むこと食べることが大好きだから、そういうところがとっても好き。だからいい町だなって思ってます(笑)

郡で2月に行われる『御崎祭り』。二日間に渡るこのお祭りも、婦人会総出で祭りの宴会の準備をしていきます。先輩方には『宴会が大事だからね』と何度も言われて(笑)。祭りは2日間に渡るので、本当に色々な準備をします。最初は、祭り関係者の昼ご飯のカレーとサラダ作り。それが終わったら夜の祭りの後の宴会の鍋の仕込み。それから翌日最終日の宴会用のおでんなどの仕込み。そうしている一方で、ブリを捌く人がいたり。宴会への力の入れようが本当にすごい。みんな、『どっちかって言ったら、打ち上げがメインだから』って(笑)。

『郡ふるさと祭り』の時も一緒です。歌がうまくて、踊りがうまくて、楽しい人がいっぱいそろってます。カラオケしてたら、演奏の合間に変装して出てきたり、自分たちで楽しむっていう芸人さんが多いなと(笑)。皆さん楽しむことを知ってるなあと思います。

あとは、景色が最高です。『毎日見てるとそのうち飽きるよ』ってすごく言われるけど、毎日、佐多馬籠から伊座敷への坂を下りるときに、まず錦江湾の向こうに開聞岳が見える。私、ついつい『薩摩富士子さん、おはようございます』って挨拶しちゃう。(南大隅町から見える開聞岳はその風貌から『薩摩富士』と呼ばれる)。

今日も世界平和と人類みな、怪我や病気や災害のないようにお見守り下さいって祈りながら坂を下ります。天気の良い時は本当に絶景。そして帰りは夕陽の絶景。空が赤くなってる日とか、最高です。そんな時は『こんな夕陽が毎日見られて最高。親父さんありがとう』って言葉が出てきちゃう。感謝の気持ちでいっぱいになります。

こんな夕陽や絶景を見ながら海沿いを通勤できるって、それだけで本当に幸せ。縁があって来た土地だし、こんな贅沢ないです。『佐多の空気を吸ったら、何もかも治るような気がする』って皆さん言われます。私も本当にそう思います」。

つっちーさんが移住してきて1年半、私も沢山の場面でつっちーさんにお世話になってきました。地元に住む方々とともに南大隅の暮らしを楽しみながら、佐多・郡の地で、地域の外から訪れる人や学生たちを迎えるつっちーさん。

そのあたたかいおもてなしは、郡を出発したその後も、訪れたみなさんの心にのこってらっしゃいます。「これからもっとお料理を作っていきたい!コーヒーを淹れたい!」と意気込むつっちーさん。益々のご活躍をお祈りしております。お話を聞かせて頂きありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いいたします!

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