一般社団法人 すみずみ!みなみおおすみ

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南大隅町移住者インタビュー・平山健宣さん


デザイナー・レンタルスペース運営

2026.2.19

本土最南端に生まれた、クリエイターの拠点

地域には、クリエイターの力が求められています

たとえば、農業分野。農家は「作物を作るプロ」ではあり、質の高い農産物は地域にあふれています。ですが、さらなる販路拡大を目指そうと思うと、そこにはコピーライティングや、画像などのビジュアルイメージによる「価値観の統一」が必要になります。

たとえば、地域づくりに関わるような新しい企画を立ち上げるとき。モヤモヤとした思いを形にするには、課題を整理し、アプローチする切り口を明確化し、それを理念に落とし込む必要があります。具体的な動きにつなげるまでに、力尽きてしまう方も多いのではないでしょうか。

そんなときこそ、「クリエイター」の出番です。課題を整理し、価値観を明確化し、具体的な形に落とし込む。そうすることで、地域に眠るモノ・コトに新たな光が差し込み、活発に動き始めるのです。クリエイター的な力は、都市部だけでなく、人口の少ない地域にこそ求められています。

さて、人口減少が鹿児島県でトップレベルに進んでいる南大隅町ですが、昨年から新たな活動が展開されています。2025年の10月から、南大隅町に移住してきたデザイナー・平山健宣(ひらやま・やすのり)さんによるレンタルスペース、「setten place」の運営が始まったのです。

平山さんはどのような経緯で南大隅に移住し、これからどんな活動を展開しようとしているのでしょうか?クリエイターが新たなライフスタイルに向けて踏み出し、地域で生きていくための事例を、詳細にご紹介します。

南大隅との出会い

平山さんは、2026年2月現在で44歳。生まれも育ちも大阪で、20代前半から現在に至るまで、デザイナーとして仕事をしてきました。

デザイン事務所に入社して経験を積みながら、文字に関するデザイン技術である「タイポグラフィ」を学び、以降は独立して「setten design株式会社」を立ち上げます。

セッテンデザインのタイポグラフィ展の様子(2016年7月)

setten designでは、グラフィックデザインの枠を超えて、様々な仕事を手掛けてきました。

参加者2000人を集めることに挑戦した音楽イベントの企画運営、写真家のマネジメント、文字に関連したアクセサリーブランドの企画立案 ……。さまざまな仕事の現場に飛び込むなかで、「デザイン」の持つ可能性に向き合った平山さん。

「人と人、人とモノ、人と空間……。ものごとのつながりの生起に幅広く携わりたいと思い、『接点デザイナー』と名乗るようになったんです」と、笑顔で語ります。

※平山さんの関わったお仕事は公式ウェブサイトからご確認いただけます。

そんな平山さんに転機が訪れたのは、2021年のコロナ禍でした。

「それまでも漠然と、『自分はずっと都市部で仕事をしていくのかな…』とは考えていました。大阪での仕事のやり方に捉われず、デザイナーとして、新たな分野や働き方にも挑戦してみたいと思っていたんです」と平山さんは当時を振り返ります。

そんな中、知人に紹介されたのが、「みなみおおすみオンライン移住体験ツアー」でした。

紅茶・焼酎など南大隅町の特産品が事前に送られてきて、それらを味わいながら地域の方々のお話を聞くというオンラインイベントでした。

特産品の中に同梱されていたのが、海をバックにエミューと向き合う男性が映った、1冊のフリーペーパー。「『かぜつち』という冊子で、『地域の人の魅力を再発見!!』というテーマで、地域のディープな魅力を紹介する冊子でした。熱量は素晴らしく、やっていることも面白かったのですが、デザイナーの手によって作られた冊子でないのは一目瞭然でした。これなら、僕でもデザインでお手伝いできるんじゃないかと思ったんです」と、平山さんは話します。

オンラインイベントに地元側のコーディネーターとして参加し、『かぜつち』のカメラマンも務めていた山下大裕(やました・だいすけ)さんに連絡したところ、「デザイナーの方に協力してもらえるなんて、渡りに船ですよ!」と歓迎を受けます。実際にデザインに携わることになり、挨拶も兼ねて南大隅町に訪れることになりました。

デザイン業務を通した地域との関わり

実際に南大隅町を訪れた平山さんは、「オープンな雰囲気がすごかった」と当時を振り返ります。

フリーペーパーの編集長・大杉(本記事の制作者でもあります)、カメラマンの山下さん、フリーペーパープロジェクトの母体であるNPOの代表・梅木涼子(うめき・りょうこ)さん、地元農家など、地域住民のもとに泊まりながら交流しました。

これをきっかけに、平山さんについて知った地元住民から、さまざまな仕事の依頼が舞い込みます。

地元住民とレストランで飲み会!
平山さんがメインでデザインを手がけた『かぜつち 3号・6号』

「地元産の豚肉ブランドの商品紹介リーフレット、地元農家である『富田バラ園』の、ロゴデザインをはじめとする名刺・シール・ジャケットなどのリブランディングなど、幅広くデザイン業務を担当させていただきました。当時はちょうど、南大隅に移住してきたばかりのHP制作ディレクターの方がいて、その方と連携できたのも大きかったですね。」と平山さんは笑顔で話します。

仕事を通して南大隅町に来訪する機会も増え、楽しい時間を過ごしました。

平山さんが手掛けた、「富田バラ園」のロゴデザイン
すみずみ!みなみおおすみの紹介リーフレットも、平山さんにデザインをお願いしました

こうして、3〜4年間にわたって南大隅町に関わってきた平山さん。年に1〜2回は南大隅町に訪れ、地域住民の方々と交流を深めていました。

「ここまでは特に移住を考えているわけではなかった」と当時を振り返りますが、滞在中のある飲み会の席で、再び転機が訪れます。

「去年閉鎖された鹿児島銀行の跡地、活用されないまま放置されてるよね。地域のみんなが通っていた居酒屋さんも、最近閉店になっちゃった。銀行のカウンター席を、お酒が飲めるスペースにできたら面白いよね!

滞在を通して仲良くなった梅木涼子さんの家での飲み会で、旦那さんである竜二(りゅうじ)さんが発した何気ないひとこと。飲み会の流れで出てきた与太話で、平山さんは気にも留めていませんでした。

当時の鹿児島銀行根占代理店の様子

しかし、大阪に帰って落ち着いたタイミングで、だんだんとそのアイデアについて考えるようになりました。

当時は、20代後半から続けてきた、京都芸術大学の非常勤講師としての仕事が15年目を迎えるタイミング。「ありがたいことに15年もやらせてもらったんやな……」という思いと、「あの誰も使いこなせていないスペースで、自分だったら何ができるだろう……?」というワクワク感が、具体的な形として像を結び始めていました。

デザインの仕事は、Macとネット環境さえあれば、大阪でなくてもできる。

ならば、南大隅町で新たな一歩を踏み出すのも悪くないのではないか?

平山さんは、すみずみ!の移住コーディネーターでもある梅木さんに、「南大隅に、事務所の移転を考えている」という旨のメールを送りました。返事の電話は一瞬でやってきました。

こうして、平山さんの新たなステップが始まりました。

地域で企画を実現するまでの、具体的な流れ

では、setten placeが出来上がるまでの具体的なステップを見ていきましょう。

現地視察
「鹿児島銀行根占代理店」は、2024年2月に移転統合で閉鎖され、跡地・建物は町の所有物になっていました。これを利用するためには、町と平山さんの間に、物件の賃貸契約を結ぶ必要があったわけです。梅木さんのサポートのもと、まずは役場の企画観光課にかけ合い、建物の内部を見学しました。
(飲みに使うはずだった銀行のカウンターは、残念ながら撤去されていました…)

企画書の作成
setten placeのコンセプトを書き出し、事業内容、ざっくりとした予算、大まかな工程をまとめた企画書を作成しました。梅木さんに見せて意見をもらいながら、企画内容をブラッシュアップしていきました。

当時のコンセプトについて、「都会のひとが、田舎に憧れを持てる場所」というイメージがまずは浮かんだ、と平山さんは語ります。

「南大隅町の若者は、都市部に働きに出るケースが大半で、町内では少子高齢化が進んでいます。都会の住民⇄田舎の住人がそれぞれの『暮らしのよさ』を再認識し、若い世代が南大隅の暮らしに憧れるような場があれば……、というのがイメージの根幹になりました。」

南大隅町役場と、地域住民への働きかけ
企画書を完成させた平山さんは、梅木さんのサポートのもと役場の方々と相談を重ねました。
「地域の方々にも話を聞いていだだき、少しずつ内容を理解してもらって、なんとか企画を実現できることになりました」と、感慨深く話します。

④施工
(1)内見
地域の建設業者など関係者を集めて、改めて内見。活用する部分・撤去する部分を選定し、具体的な図面作成の準備に入ります。

(2)図面の作成
大阪で懇意にしている設計士の友人にお願いして、理想を盛り込みつつ現実的なラインを探ります。これにより、何にどれくらいのお金がかかるかが決まります。

(3)予算の決定
図面をもとに、具体的な予算を決定。施設の整備にあたっては、鹿児島県が実施している「かごしまワーケーション推進施設整備支援事業」に申請できることになりました(施工経費の半額を助成、上限150万円)。地元の建設業者である「折田建設株式会社」に正式に依頼することが決まりました。

(4)着工
このタイミングで仮住まいを確保して、本格的に南大隅町に暮らし始めました。専門的な技術が求められる部分は折田建設に依頼しつつ、平山さん自身もできることはやっていきます。「面積に応じて施工料金がかかる床や壁などの施工は、自分でやることで経費を節約できます。作業は予想以上に大変で、首や肩のダメージは大きかったですが……」と平山さんは笑顔で話します。

※平山さん自身が施工にチャレンジした部分
・床:タイルめくり、研磨、コンクリート強化剤の塗布(摩耗やひび割れの防止、粉塵の発生防止につながる)

床材のタイルめくり
金庫スペースの床材めくり
タイルを剥がし終わった床の研磨

・天井:真っ白だったのをグレーに塗り替える

・壁:白く塗り直す

壁塗りが完了し、天井の塗装に入ったところ

setten placeの機能

約2ヶ月の施工期間を終えて、2025年10月1日、ついにsetten placeがオープンしました!

9月28日に開かれたオープンイベントには40〜50人の地域住民や関係者が訪れ、施設を見学しながらこれからの活用に思いを馳せる、賑やかな夜になりました。

setten placeの具体的な機能は、以下の通りです。

①コワーキングスペース
・地域住民もそうでない方も、気軽に利用できるワークスペース
・イベント・セミナーなどの貸切利用も可能
・コーヒーマシン完備で、飲食も可能

※主な設備:高速Wi-Fi、プリンター、電源、150インチスクリーン、プロジェクター

②カフェ&ダイニング
・利用者に場を解放し、飲食サービスを提供・利用可能
→実施時はInstagramやLINE公式アカウントにて告知します。

※使用例
・宴会:歓送迎会や地域の集まりなど(飲食物持ち込み可)
・イベント:ワークショップ・マルシェ・音楽イベントなど
・間借り:自分のやってみたいお店を低コストで試せる場

③レストスペース(準備中)
・元々金庫だったスペースを改装
・半個室ブースで、集中した作業や休憩をとることが可能
・共用ラウンジでは、地域住民や他の滞在者との交流も楽しめる

setten placeと平山さんのこれから

2026年2月現在、平山さんはデザイナーとしての業務を行いながら、setten placeの運営を行っています。実際に暮らしてみて感じる南大隅の魅力は、「貨幣経済ではない経済が存在しているところ」

「setten placeの運営にあたって、お皿は全て地域住民の方々に寄付していただきました。こんなに集まるとは全く予想していなかったのですが、『地域で頑張る人を応援したい』ということなんですかね。『どうせ処分するなら、金銭的な得よりも誰かを応援することに使いたい』というメッセージなのかもしれません」と平山さんは笑顔で話します。

setten placeではこれから、積極的にいろんな企画をやっていきたいとのこと。

「コワーキングスペースを活用してくれている中高生が数名いるのですが、彼らの同級生にも『勉強って楽しいかも!』と思ってもらえるような企画を考えています。他にも、施設の中に立ち飲み屋さんが出現する企画や、南大隅町だからこそできるアートフェスの開催など、僕の中ではたくさんのイメージが浮かんでいます。地域でやりたいことがある人は、ぜひアイデアの種を話しに来ていただきたいですね」と平山さんは語ります。

地域にクリエイターが移住することは、地域の可能性が大きく増えることにつながります。

地域でやりたいことがある誰かの思いを形にし、これまでにない取り組みが生まれる。人とものごとの新たなつながりが生まれる。
これらが連鎖的につながっていくことで、次世代の若者が地域で暮らしたくなるような、ワクワクする未来が見えてくる。

setten placeが、地域の未来を作り出す「楽しい実験場」になることを、同じ住民として願ってやみません。

文:大杉祐輔  写真提供(施設関連写真の一部):平山健宣


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