陶山優子さん/お弁当屋さん・古民家改修
いいと思うことに果敢に挑戦する、地域の先輩方との時間を大切にする、やわらかな雰囲気の中に一本芯がある。それが私の中の陶山さんのイメージだ。南大隅町に移住して7年、波の音が心地よい根占・大浜で暮らしを楽しむ陶山さんにお話を伺った。

仕事と暮らしを近づけたい
「どこかへ逃げ出したい」、会社員時代の陶山さんはそんな想いを抱えていたと言います。自分と仕事がお金でしかつながっていない、と感じる毎日。「働いたお金で買い物をして流行を追っても、いつまでも満足しないなと」。そんな日々を変えたいと、陶山さんは大学進学を決意。昼は会社員、夜は受験勉強、そして念願の進学を果たします。
大学で学ぶ日々、陶山さんは米作りや人とのつながりなど、地域に根付いた暮らしに関心を抱くようになります。「自分が求める暮らしは田舎の資源とつながっている」と感じた陶山さんは、地方での暮らしを決意。卒業後は地方の建築事務所に就職し、産直木材を使った建築や、施主とともに進める家づくりに携わります。


米作りの楽しさ
米作りに関心があった陶山さん、「あいている田んぼがあるよ」と声をかけて頂いたのもその頃でした。仕事のかたわら、近所の農家さんに米作りを教わったと言います。「農作業を通して身体を動かすのが気持ちよくて。あと、季節の移ろいとともに田んぼで聞こえてくる生き物の声がだんだんと変わっていくんです。おたまじゃくしもカエルになります。田んぼにいながらそういうことに感動していました」。

翌年、陶山さんは、耕作放棄地を活用して〈田んぼオーナー制〉の取り組みを企画。時には参加者とともに〈田んぼの生き物観察会〉を実施し、収量だけではない米作りの楽しさを感じていたと言います。

子育てを機に南大隅へ
地方で「暮らしに直接つながる仕事がしたい」という思いとともに「子育てをするなら田舎で」と考えていた陶山さん。出産を機に、より自然豊かな田舎への移住を考えるようになります。
その中で思い出したのは、小学生時代に家族と共に過ごした南大隅町佐多・田尻の海でした。ご両親のお仕事の関係で、鹿屋市に住んでいたという陶山さん。
「休みの日になると、魚好きの父に連れられて田尻の海まで遊びに来ていました」。それは決まって大潮の日で、海水浴ではなく、タイドプール(※1)を見に行くという、生き物が好きな陶山家ならではの休日。「魚たちを観察したり、捕まえてみたり。そんな時間がすごく楽しくて」と笑います。

※1タイドプールとは …タイドプールは「しおだまり」ともいい、海で海水が引く「干潮時」に磯などの岩のすきまにできる水たまりのことをいいます。タイドプールには様々な生き物がすんでいます。引用:農林水産省HP

その後、陶山さんは、ご縁あって南大隅町社会福祉協議会へ就職。南大隅へ移住します。老人会活動を通して地域の方々とふれあいながら町を巡る日々。
根占・大浜地区との出会いもその頃でした。住宅の側に広がる美しい海。地元の方に「住める空き家はないですか」と相談したところ、海まで徒歩10秒、波の音が聞こえる一軒家を紹介されました。
家は人が住めるような状態ではなかったそうですが、そのロケーションに、迷わず住むことを決めたと話します。

好きな場所で、挑戦していく
その後、陶山さんは紹介された空き家を改修し、大浜での暮らしを始めます。陶山さんは、料理が得意な旦那さんと共にお弁当屋さんを開業。知る人ぞ知るお弁当屋さんとして、素材や調味料にこだわったお弁当作りをされています。
ほかにも、これまで挑戦してきた米作りや、前職の経験を生かした珪藻土による壁塗りをはじめ、ブロンズ人材センターでの農産加工品作り、古物商、竹細工、体験プログラム企画や、地域サロンのお手伝い、町女性会への参加など幅広く活動。
陶山さんは「色々やりすぎたかな、どれも進んでなくて。それでも、一つひとつがすごく楽しい」と笑顔。

そんな陶山さんの新たな挑戦がもう一つ。それは、大浜地区にある空き家を活用し〈料理を提供できる地域の交流拠点をつくること〉。
「大浜で暮らしながら、地域の方に料理をおすそわけしたり、時にはそのお返しもらったり。そんな日常のやりとりが嬉しいなと感じていました。地域には一人暮らしの方も多いので、料理が暮らしの助けになれば嬉しいし、食べものをきっかけに地域の先輩方とおしゃべりできたら、私自身も嬉しいなと」。

「ほかにも、料理が得意な地域の方に美味しいものを作ってもらったり、普段コーヒーを淹れてくださる方に一日喫茶のマスターになってもらったり。地域の方の得意なことを活かせる場所になったら楽しいなと思います」と陶山さん。
「あと、大浜にはお店が無いので、忘年会など大浜地区の会合のお世話もしたい。食べて飲んで歩いて帰れるって素敵ですよね。子どもたち向けのワークショップもやりたいな」。夢が膨らみます。

暮らしと仕事を考える
「南大隅町で暮らしたいと考えた時、最初に考えたのはやはり仕事でした。すぐには難しいけれど、少しずつ自分のやりたいことを形にして、それを受け取る相手にも喜んでもらえる、その中でお金がめぐっていくような、そういう暮らしや仕事のありかたを目指したい」と話します。
また、「お金ももちろん大事だけれど、ここで生活することで得られる恩恵や地域の資源がある」とも。
移住を考えた時、収入だけを見ると大きくはないかもしれません。それでも、暮らし全体を考えたとき、田舎だからこその暮らしやすさ・生きやすさもあるはず。

陶山さんと話していると、何より今の暮らしを楽しんでいらっしゃることが伝わってきます。その言葉の中には南大隅の魅力も沢山つまっています。
最後に、「いいなと思っている地域の良さも失われたら忘れられてしまう。だからこそ、地域の良さを共有していくことを大事にしたい」と陶山さん。
地域を想い、楽しみ、やりたいことを表現する。陶山さんの今後の動きから目が離せません…!
陶山さん、お話を聞かせて頂き、ありがとうございました!

(取材:2022年8月/インタビュアー:有木円美)