「南大隅町との関わりはもう10年以上になりますね。お仕事で携わった行政職員の方々の、地域への想いの熱さがすごくて…。大隅半島を盛り上げるために、南大隅町でできることを形にしたいと思うようになりました」そう笑顔で語るのは、黒川かおり(くろかわ・かおり)さん。「株式会社モエノバ」の代表取締役社長として、町内外を日々走り回っています。
株式会社モエノバが本格始動したのは、2023年7月でした。ふるさと納税向けの商品出荷を中心に、イベントでの農産物・特産品販売、ゲストハウス「奥屋敷城内」の運営、東串良物産館 ルピノンの里の運営など、幅広い活動を展開しています。南大隅町に暮らすみなさんも、一度は名前を聞いたことがある方が多いのではないでしょうか。
今回はモエノバの成立経緯や取り組みについて黒川さんにインタビューしながら、活動への思いや今後の展望を伺います。
大杉:本日はよろしくお願いします!事務所は「奥屋敷城内」の裏手にあるんですね。初めて伺いましたが、風情ある素敵な雰囲気でびっくりしました。
黒川:辺田(へた)の元結婚式場である「二川」(ふたがわ)も施設はお借りしていまして、本当はそちらを本社にする予定だったんですが、地域の方の思い入れがとても強い施設なので、事務所というよりはもっと開けた場として活用したいと思うようになったんです。今はこちらの城内(じょうない)の事務所が本社的な機能を果たしていますね。
大杉:スタッフさんは、現在何人ぐらいいらっしゃるんですか?
黒川:パートさんも含めて20人ぐらいですね。南大隅在住のメンバーは4〜5人で、あとは鹿屋・志布志・肝付町に暮らしている方が多いです。メンバーや知人からの紹介をいただいて、どんどん増えていますね。
大杉:「モエノバ」の名前は町内でもよく聞かれるようになってきて、取り組みや設立背景など、気になることがたくさんありますね。色々とお話伺えればと思います。
【3人の中核メンバーの強みを結集】
大杉:黒川さんの南大隅町との関わりは、どのようにして始まったんですか?
黒川:私自身は肝付町の高山(こうやま)の出身で、個人事業主としてPC関係のアドバイザーや、ふるさと納税関係のコンサルティングの仕事をしていました。
行政と連携する案件も多く、南大隅町での仕事はもう10年以上になります。学生時代は海の近い場所で学びたくて、南大隅高校への進学も真剣に検討していたぐらいでしたから、こちらで仕事ができるのは嬉しかったですね。笑 近年は「オドル野菜プロジェクト」関係でも裏方として携わってきました。
大杉:地域とのつながりの延長線上で、「モエノバ」の取り組みが始まったんですね。
黒川:そうなんです。行政方面とのお付き合いは仕事柄深いほうで、大隅半島の4市5町のPRイベントで大崎町や品川で出展のサポートをする機会があったんのですが、他地域もさることながら、南大隅町の行政職員の方々は、地域への思いがダントツに高かったんです。そこから「南大隅町内を中心に何かできればな〜」というのはずっと考えていました。
大杉:モエノバの立ち上げに関わった中心メンバーはあと2人いらっしゃるそうですが、お2人とはどのようなつながりがあったんですか?
黒川:私以外の2人は東京在住で、オンラインでの物販販売・グラフィックデザインを行ってきた大重雄進(おおしげ・ゆうしん)と、イベント企画の仕事をしている川口亮(かわぐち・りょう)がいます。大重も私と同じく元々南大隅町とのつながりがあり、先ほど述べた品川のPRイベントで知り合いました。
川口は大重の知り合いで、都会での仕事に疲れていたところを大重が南大隅町に呼んで、一緒に大浜のゴミ拾いをしたところから地域との縁ができたそうです。その後も月に1回ぐらいのペースで来訪して、「この地域で何かできないか」という思いが生まれたようです。
大杉:行政経由のつながりがベースにあったわけですね。そこからどのように「モエノバ」に発展していったんですか?
黒川:当時の私は個人事業での取り組みに限界を感じていまして、「もっと農業の現場に寄り添った形で、地域の役に立てないか」と考えていたんです。あと2〜3年後には会社を作って、本格的に取り組みたいとイメージしていたのですが、そんなときに大重から「話がしたい」と連絡があったんです。
大重・川口も先ほど述べたような流れで、地域活性につながるようなビジネスをスタートさせていきたいと考えていたタイミングだったんです。1時間ほどZoomで打ち合わせした結果、共同経営でビジネスを始めることが決まりました。そこから先は急ピッチで登記などの準備を進めることになり、大変な日々でしたが…笑
大杉:そんな流れがあったんですね…!都市近郊を拠点としたメンバーが中心になると、地域での取り組みにも新たな可能性が生まれそうですね。
黒川:そこがポイントで、私たちは3人とも得意分野が全然違うんですよ。大重はオンライン販売や都市部への販路開拓、川口はイベントプロデュース、私は地域住民のつながりをベースに現地で動けるのが強みですね。
地域に暮らす私にとっては当たり前に感じるものにも、都会に暮らす2人は目を輝かせて喜んでくれるんです。都市部とのつながりまで活かした新たな視点で、地域の魅力を引き出し、新たな取り組みに繋げていければと思います。
【個人事業主時代からの地域とのつながり】
大杉:モエノバはさまざまな事業を展開していますが、町内の事業者とのつながりでは、やはり「ふるさと納税」関係が大きいでしょうか?
黒川:そうですね。個人事業主時代から特にお世話になっていたのが「南大隅町シルバー人材センター」なのですが、シルバーでは近年「生涯現役」を掲げて、受託作業だけでなく自分たちでさつまいもの生産も始めたんですよ。利益よりは生きがいを重視して始まった取り組みなので、販路の部分がネックになっており、「作っても売り先がない!」という相談があったんです。
大杉:販路関係は、生産者にとって特に重要な問題ですね。
黒川:そこでモエノバでは、私が常々必要と感じてきた「一括集荷・販路分配」を行うことにしたんです。モエノバメンバーが地域の農家のもとを周って、さつまいもを直接集荷します。それをモエノバ側で、ふるさと納税用・物産館用・イベント販売用・加工用…というふうに分配して、調整・販売を一手に担うわけです。
大杉:生産者にとっては、出荷の手間を減らしながら販路も確保できる、嬉しいシステムですね!
黒川:時期によって変わってきますが、最近のふるさと納税では、じゃがいも・デコポン・はちみつなどの農産物を南大隅町内で集めて出荷しています。「これも売りたい」「こんなことができたら嬉しい」という提案がありましたら、ぜひお聞かせいただければと思います。
【南大隅から、大隅半島を盛り上げる】
大杉:東串良物産館「ルピノンの里」の運営は、いつ頃から始まったんですか?
黒川:2024年の4月から始まりました。個人事業主のころから行政と携わっていて感じていたのが、「地域を盛り上げるためには、個々の地域での取り組みだけでなく、周辺地域と連携した全体の取り組みも必要」ということでした。南大隅町を拠点としながら大隅半島全体の活性化を目指すべく、東串良町に指定管理受託のプレゼンを行い、指名いただいたんです。
地元生産者の産品はもちろん、「だいたんなゼリー」「ねじめびわ茶」などの特産品やはちみつなど、南大隅の特産品も販売しています。販路確保につなげるだけでなく、芋けんぴ・さつまいもチップスなどの加工品生産も、物産館の設備で行えるようになったんです。
大杉:地域の内外とつながりを作ることで、新たな展望が見えてきそうですね。町内の一棟貸しゲストハウスである「奥屋敷城内」の取り組みは、どのように始まったんですか?
黒川:町内でクラフトビールの製造・販売を行う「Honey Forest Brewing」の運営をされている相羽さんから、「親戚の家を譲り受けたので、地域のPRのために活用してほしい」という依頼をいただいたんです。相羽さんから施設をお借りして、私たちで運営するという形で取り組みが始まったんです。
クラウドファンディングで資金を集めて、2024年の3月に正式オープンしました。コロナ禍が終息したこともあって最近は予約も増えつつあり、県外をメインに海外からのお客様もいらっしゃいます。地域の皆さんにも、イベント関係などでもお気軽にご活用いただきたいですね。
大杉:最後に、今後の展望や力を入れていきたい取り組みなど教えてください。
黒川:南大隅町の町花であるハイビスカスや、農業関係の課題の一つであるジビエ活用など、新たな特産品の開発に力を入れていきたいと思います。ハイビスカスは相羽さんと一緒に種まきして、あと2〜3年後には生産が本格化しそうです。松元食品さんにご協力いただいて、「ハイビスカスうどん」の開発も進めているんですよ。
黒川:モエノバで地域の方の「やりたい!」という思いを形にして、一緒に走っていけるような場であることが理想だなと感じています。まずは皆さんのやってみたいことをお聞かせいただいて、できることに共に取り組んでいければと思います。南大隅町を、大隅半島を、もっともっと盛り上げていきたいですね。
大杉:地域とのつながり・地域外の目線・幅広い販路があるからこそ、力強い活動ができるわけですね。今後の活躍を期待しながら、自分もできることがあれば応援していきたいと思います。本日はお忙しい中ありがとうございました!
(執筆・写真:大杉祐輔)