地域での暮らしを始めるにあたって、やはり不安なのは「人とのつながり」です。自治会活動、ご近所付き合い、職場の同僚との関わり…。新しい環境に飛び込むうえで、知人や友人の存在ほど心強いことはないでしょう。
そんなとき、特におすすめなのが「趣味の仲間を持つ」ことです。南大隅町では「生涯学習講座」が開催されており、毎年6〜10月には俳句・吹き矢・ダンスなど、バラエティ豊かな講座が開講されています。
今回は、スケッチ・水彩画など、多分野にわたり生涯学習講座の講師を務めた経験があり、「みなみおおすみ天文同好会」の会長でもある牧口信廣(まきぐち・のぶひろ)さんにお話を伺いました。同好会活動を始めたきっかけや、仲間と共に取り組む魅力をご紹介します。
◆教員生活と天文との出会い
牧口さんは、根占の錦江湾沿いに位置する「大浜地区」のご出身です。神奈川県内の公立中学校で美術をメインに教鞭をとり、教科指導のほかに野球部・文芸部・自然科学部など、部活動の顧問としても活躍されました。
「運動部では軟式野球部の監督・コーチを務め、放課後の練習だけでなく夏季休業中も大会や新人戦のための練習日が続きました。休みを取れない時期もありましたが、おかげで地区大会では優勝し、県大会・関東近県大会への出場を果たすことができました。大変ではありましたが、今では良い思い出となっていますね」と懐かしそうに話します。
そんな部活動顧問としての活動のなかで、特に印象に残っているのが「気象天文部」での活動でした。
「私が天文分野に興味を持ったのは、実は教員になってからなんです。もともと臆病で暗闇が怖く、一人では外出ができないような子どもでした。満天の星が見える根占で生まれ育ったものの、唯一印象に残っているのは小学校時代の日食観測ぐらいです。」
そんなある日の職員会議の休憩中、ある理科教師の一人から声がかかりました。「『牧口さん、今日は水星が良く見える日だよ。かの有名な天文学者、コペルニクスでも見たことがなかったと言われているんだ。3階の理科室に天体望遠鏡を準備しているから観に行こう』と誘ってくれたのです。初めて望遠鏡で見る星に感動した私は、望遠鏡が欲しくなり、自分のために購入してしまったほどです。しばらくして、科学部の顧問から『科学部の天文班数名の面倒をみてほしい』と打診があり、その部員たちと新たに立ち上げたのが気象天文部だったんです。」
天文部の生徒たちとは、日食や流星群の観測に取り組みました。夏休みにはペルセウス座流星群の合宿で、自然教室や神奈川県内のキャンプ場、県外では八ヶ岳山麓に出向きました。
「部員の子どもたちと好きなことが共通していることもあり、とてもやりがいを感じる経験でしたね。珍しい天文現象があるときには、部活動だけでなく学年だよりにも観望の勧めや観測結果など掲載して、星空の美しさを紹介したものです。」
◆プロとアマチュアのはざまで
そんな教員生活を過ごす中、牧口さんは「変光星観測」という分野に興味関心を持つようになります。変光星とは、時期によって明るさに違いがある星の総称です。天文雑誌にあった変光星観測のゼミ案内に目が止まり、それに参加したのをきっかけに、「日本変光星研究会」への入会を決めました。
「天文関係の研究はプロとアマチュアが協力して行える分野も多く、私も双眼鏡・望遠鏡を使った眼視による変光星観測をするようになりました。近くの銀河系に明るい超新星が発見される情報が出ると、無性にワクワクしたものです。何も見えなかった空間に、今この瞬間は星が見えている!増減光する天体の光度変化をグラフにするのも楽しかったですね」と目を輝かせて話します。
当時の牧口さんは研究会の関東事務局員として、全国にいる多くの会員の近況報告・変光星情報・観測内容などまとめ、機関誌として発行もしていたそうです。
◆介護生活と生涯学習への挑戦
定年退職を迎えた牧口さんは、故郷である根占へ戻ることを決めました。きっかけは、地元で暮らすお父様の介護の必要性でした。
「日中は父親と一緒に過ごす時間が長く、介護に集中する日々が続きました。ですが、それだけでは人とのつながりが減っていきますし、刺激も少ないんですよね。せっかくなのでなにか郷里の役にたてないかと思っていたところ、生涯学習講座の存在を知ったんです。」
最初は「スケッチ講座」を担当し、有名な観光地ではなく、地域の何気ない風景を描くことにしたそうです。
また、それとは別に大浜海岸から見える夕焼け・満天の星・天の川などの写真撮影を行っていました。一人で楽しんでいたところ「この素晴らしい星空を町民にも伝えたい」と思い立ち、今度は「星空ウォッチング講座」の開設に着手します。旧宮田小学校で観望会・学習会を実施し、星空の紹介を町民文化祭で展示しながら、広くPR活動を行いました。
「望遠鏡を使って土星や月などの観察会を実施したところ、地域の方々や子どもたちが、初めて見る天体に感動してくれる姿がとても新鮮に映りました。そのことがきっかけで、『多くの人々に南大隅町の星空の美しさを体感してほしい』と思うようになったんです。そこで、地域の方々や生涯学習講座の参加者に呼び掛けて、『みなみおおすみ天文同好会』を立ち上げました。」
現在では町内外で15人のメンバーと共に、旧宮田小学校を拠点として、様々な天文現象の観察を行っています。
「会員はそれぞれの目標を持って日々観察や勉強を行っており、最近では南大隅町・錦江町の星空の写真を盛り込んだカレンダーの作成・販売も始めました。これからの時代は宇宙開発がいっそう重要な事業になっていくと思います。未来に生きる子どもたちに、自然や星空の美しさを感じながら、天文や宇宙に関心を持ってもらえたら嬉しいですね。」
同好会活動は「地域の大人の部活動」です。趣味という共通点をきっかけに、人とのつながりを作り、その地域の魅力を再認識する。学生時代は味わえなかったような、新たな視点からものを考えるきっかけになる。日常生活にはない刺激的な体験が、あなたを待っています。地域に移住した際は、ぜひ生涯学習講座・同好会活動をチェックしてみてください!
(文・写真=大杉祐輔、写真提供=牧口信廣)