一般社団法人 すみずみ!みなみおおすみ

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南大隅町移住者インタビュー・岩月かおりさん


パン職人・「宇宙ベーカリー」オーナー

2026.3.14

50代からの挑戦!本土最南端にオープンしたパン屋さん

鹿児島県内でもトップクラスに人口減少が進む南大隅町。人口の2人に一人が65歳以上のこのまちでは、飲食店の数も減少しています。地域の方々に愛されたレストラン・居酒屋・スナックがひとつ、またひとつと店じまいし、寂しく感じている人も少なくありません。

買い物ができる場所は、暮らしの豊かさ・楽しさを提供してくれるだけでなく、突き詰めれば生活基盤とも言えるものです。南大隅には、地域で唯一の商店がなくなり、お店まで車で片道40分かかるような地域も存在します。「買い物環境」は人口減少・高齢化が進む地域において、喫緊の課題なのです。

そんな南大隅町に、2026年2月からパン屋さん「宇宙ベーカリー」がオープンしました! 

お店のオーナーは、移住者の岩月かおり(いわつき・かおり)さん(57)。千葉県市原市で2年間パン職人として働き、2025年9月から南大隅町の諏訪上自治会(すわかみじちかい)に暮らしています。

2025年9月に千葉県から移住した、岩月かおりさん

DIYも交えて物件を改修し、店舗・工房・住宅を兼用。
書家としても活動しており、東京芸術劇場をはじめ、アメリカのカーネギーホール、スペインのサン・パウ病院など、海外の各地に作品を展示したこともあります。

書を取り入れたオリジナルグッズも販売しています。

「南大隅町は、私にとって天国のような場所だと思いました」と話す岩月さん。

彼女はどのように南大隅町に出会い、お店をオープンしたのでしょうか? 本土最南端の地で、50代から初めて個人事業主として独立した、岩月さんのバックグラウンドに迫ります。

経験ゼロからパン職人の道へ

岩月さんの出身は霧島市。大学卒業後は鹿児島市内で働いていましたが、結婚を機に、旦那さんの職場のある千葉県市原市に移住。娘さん2人を設けて、約30年過ごしてきました。
「私たちの暮らすまちは山を切り拓いてできた住宅地で、中流世帯が大半を占める、住民の同質性の高い地域でした。お店もたくさんあって暮らしには不自由しませんでしたが、『良くも悪くも普通のまち』という感じでしたね」と、岩月さんは当時を振り返ります。

長柄町(ながらまち)のカフェで働いていたところ、オーナーから『お店にパン屋を併設したいんだけど、やらない?』と打診され、独学と食べ歩きの日々を経て、経験ゼロの状態からパン職人に転身します。

「2年間ぐらい関東の名店と呼ばれるお店を回って、毎日毎日パンを食べていました。パン作りは初めての経験でしたが、実際に取り組んでみると、不思議と全く苦になりませんでした。無心で作業できるのが、私にとって幸せな時間なんです」と岩月さんは笑顔で話します。

2023年から「カフェとパンのお店 マキネッタ」としてオープンし、隠れ家的なパン屋さんとして、今でも地域に愛されています。

MOON(食ぱん)
アンドロメダ(シナモンシュガー)
ULTRA(全粒粉と黒豆)

しかし、娘さん2人が自立したころ、岩月さんの胸に去来した思いがありました。
50代を機に、『先が見えてしまった』という感覚が強くなりました。自分がここでずっと生きていくのは、やっぱりちょっと違うなと思うようになったんです。『南の暖かい地域で生活したい!』という夢があったので、どうせなら実現に向けて一歩踏み出してみることにしたんです」と岩月さんは語ります。

「スマウト」という地域とつながるオンラインプラットフォームで物件を探したり、宮崎県の都城市へ空き店舗の見学に行ったりと、移住に向けて徐々に動き始めました。

とんとん拍子の移住検討

岩月さんが南大隅町を知ったのは、地元の高校の同級生で、宇宙ベーカリーを共に作ってきた東海林智子(しょうじ・ともこ)さんがきっかけでした。東海林さんの知り合いが、南大隅町の佐多地区にある家を空き家として貸し出す意向があるそうで、二人で行ってみることにしたのです。

2025年7月に初訪問した南大隅町の第一印象は、「ここがいい!!」のひとこと。
「海と空がきれいで、全身でよさを感じるというか、フィーリングが合うというか……、ヒラメキって感じですね」と岩月さんは明るく話します。南大隅への移住を、このタイミングで決めました。

さらに、高校の同級生だった相羽ゆか(あいば・ゆか)さんの現在について知りました。

Honey Forest Brewing代表 相羽ゆかさん

ゆかさんは結婚して長らく南大隅町に暮らしており、2021年にクラフトビール店「Honey Forest Brewing」をオープン。たんかん・辺塚だいだい・パインアップルなど、地元農産物を使った商品を開発し、県内でも数少ない女性ブルワーとして活躍しています。

すぐに相羽ゆかさんのクラフトビール店も訪ねて連絡を取り合い、久々の再会を果たします。
移住してパン屋さんを開きたい旨を打ち明けると、役場職員である旦那さんのサポートもあり、すぐに空き家バンクや助成金の説明も受けられることに。急遽滞在期間を延長し、移住に向けて動き出すことになりました。

来訪3日目には、移住相談窓口「すみずみ!みなみおおすみ」を紹介され、気になる点を色々と相談します。その後は企画観光課のサポートのもと、空き家バンクの掲載物件を3〜4件見て回ります。店舗兼住宅になるような家の目星をつけて、意気揚々と千葉に戻りました。

千葉に戻ったあとは、鹿屋在住の東海林さんに内見を頼み、オンラインで映像を送ってもらいながら物件の状態を確認。ここがいい!という物件を見つけて、実際に借りる運びとなりました。すごいスピード感です……!

物件改修・店舗オープンまでの流れ

では、岩月さんの物件改修〜店舗スタートまでの具体的な流れを見ていきましょう。

①移住前の再来訪
2025年9月には物件の賃貸契約を完了し、千葉から南大隅に移住する運びになりました。

「『マキネッタ』は次女が引き継いでくれることになり、家族も笑顔で送り出してくれました。応援してくれることに感謝して、新たなステージで元気に活躍する姿を見せていきたいですね」と岩月さんは話します。移住後は孤独感に襲われることもあったそうですが、地域の方々のサポートや、東海林さんをはじめ友人と話す機会があったこともあり、かなり救われたとのことでした。

また、役場の企画観光課と商工会に相談して、移住にあたって利用できる補助制度について改めて確認しました。
「皆さんすごく丁寧に対応してくださって、向こうから利用できる制度を色々と提案してくださいました。その後の対応も迅速で、本当にありがたかったです」と岩月さんは話します。今回利用した制度の概要をざっくりご紹介すると、以下のようになります。
(詳細を知りたい方は、南大隅町役場 企画観光課にお問い合わせください)

・移住目的の視察での旅費助成
→移住に向けた視察や現状確認のために南大隅町を訪れた場合、支払った旅費の一部を助成
 →補助金額:交通費・宿泊費の総額の50%以内(上限5万円)

・工房・店舗の改修
→改修費の1/2を補助(上限50万円)

自宅の改修
→改修費・家財処分費のうち、2/3を補助(上限100万円)

・特産品開発
→南大隅町の地域資源を活用した特産品の開発・改良を行い、新しく商品化する場合、事業に係る経費の一部を補助
→補助金額:対象経費の75%以内(上限50万円)

・スタートアップ
→新たに事業を開始する場合、事業に係る経費の一部を1年間助成
→補助金額:15,000〜50,000円/月

・家賃
→町内の賃貸住宅に住み始めてから1年間の家賃を補助
→毎月の契約家賃の1/2以内(最大2万円/月)

入居時の様子。家財の処分からのスタートでした。

③改修作業
11月からの40日間、地元業者の折田建設今別府電気工事店に依頼しながら、改修作業を行いました。
地元業者による改修については町の補助金が利用でき、費用の3分の2が補助されます(上限100万円)。

それ以外の部分については、『マキネッタ』の店舗建築も行った同世代の大工・渡邉雅和(わたなべ・まさかず)さんに作業をサポートしてもらいました。渡邉さんの指示を受けながら、岩月さんもDIYで壁塗りなどの作業を行い、ついに予定していた作業が完了! パン製造のための機械も搬入し、工房の準備も整いました。

壁塗りは自分で挑戦!DIYなら施工料も抑えられます。

④保健所の許認可取得
パン製造は、保健所の定める「菓子製造業」にあたります。開業にあたってはもちろんのこと、市場流通による販売や、イベント出店の際には許可が必要です。
「今まではカフェで雇われてパンを作るだけでよかったのですが、自分で事業を立ち上げるのは初めてで、細かいルールの確認や準備が大変でした。まずは『当たり前のことを当たり前にやる姿勢』が大事だなと痛感しましたね」と岩月さんは話します。

「宇宙ベーカリー」の現在地とこれから

こうした準備期間を経て、2026年2月に「宇宙ベーカリー」がオープンしました!

宇宙ベーカリーの製造上のこだわりは、「湯種」による製法です。「生地の一部をお湯を使って捏ね、一晩寝かせておきます。これを本捏ねの生地に混ぜ込むことで、もちもちとして小麦の旨みが強いパンを作ることができるんです。大量製造には向かないですが、個人の小さなお店では一般的になりつつある製法なんですよ」と岩月さんは話します。

もちもち感の秘密は「湯種」。前日に仕込んで、パン生地に配合します。

「マキネッタ」時代から積み重ねた研究と実践によって生まれたパンは、噛めば噛むほど小麦の味が感じられ、毎日でも食べたくなる美味しさです。

SUN(もっちりぶどう)
LOVE&PEACE(スペルト小麦とカスタードクリーム)

基本的には予約受け渡しで販売しており、LINE公式アカウントや電話での注文を受け付けています。

予約すると、こんな感じで用意されます!玄関先で受け渡しします。
地域内外でのイベント出店も行っています!

岩月さんの今後の目標は、「自分のパンで誰かに笑顔になってもらうこと」
「無心になって集中して作ったパンには、自分の思いとか、人生とか、全部が詰まってるような感じがします。南大隅に来てからは一人の時間が増えて、色々と考える余裕ができたというか、より人間らしい生活ができていると感じています。いまの私のパンを食べて、誰かに笑顔になってくれたら、パン職人冥利に尽きますね!」と、弾けるような笑顔で語ります。

2026年3月上旬には、地域の方から提供いただいた「つるしびな」を利用し、「宇宙ベーカリー的ひな祭りお茶会」を実施しました。

「マキネッタでは雇われの身だったので、職人としてパンを黙々と作っていればよかったんです。ですが地域に実際に暮らしてみると、ひとつひとつの出会いを大事に、自分の言葉で思いや企画を伝えていくことが大事だな~と実感しました。パンという形でお世話になっている方々に感謝を伝えながら、地域の方々のつながりの中に少しずつ入っていきたいと思います。皆さんとコラボレーションしながら、Love&Peaceの精神を胸に、『ここだからこそできる企画』をやっていきたいです」と笑顔で語ります。

ひな祭り期間は、パンを食べながらお茶会を楽しめるイベントを実施!

宇宙ベーカリーは、岩月さんの「第2の人生」を思いっきり描く場です。今まで培ってきた技術や感性が、地域で育まれてきた文化や風土と混じりあうことで、移住者と地域住民の双方に、見たことのないような化学反応がもたらされます。

「地域」という真っ白な紙を目の前に、岩月さんがこれからどんな表現を見せてくれるのか。同じ地域住民の一人として、お店に通いながら見守っていく所存です。

(文:大杉祐輔 写真の一部提供:岩月かおり)

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【宇宙ベーカリー】
◆基本情報
〒893-2502 南大隅町根占川南3825-1
Google Mapsはこちら
・TEL:090-6026-8170

◆公式HPはこちら

◆公式Instagramはこちら