目指すは、50代からの新規就農!
「南大隅町の魅力は、静かなところですね。自然が豊かで、星空も綺麗で。色々な地域を回りましたが、田舎暮らしをするならやっぱりここかなと思ったんです。」
そう笑顔で語るのは、群馬県在住の佐藤裕一さん(51)・道子さん(52)ご夫妻です。
2025年7〜9月にかけて「すみっこ留学」に参加し、新規就農を目指して、地域の方々と共に日々汗を流しています。


「すみっこ留学」とは、すみずみ!みなみおおすみが企画運営を行う移住体験プログラムの一つです。
その特徴は、なんといっても2〜3ヶ月の中長期滞在であること。
2〜3日の短期滞在は、観光・交流を通して地域の魅力に触れるにはいい機会ですが、実際にその地域で暮らしていけるかを検討するためには、あまりにも不十分です。

すみっこ留学は、お試し住宅に滞在いただきながら、南大隅の基幹産業である農業を中心に地域住民のもとで働き、生活費を稼ぎながら移住を体験していただくという取り組みです。
(お試し住宅は通常1泊1000円ですが、すみっこ留学中は免除)
移住コーディネーターとの面談やワークショップも行いながら、余暇の時間は自由に過ごしていただき、地域の等身大の日常の中で、実際に暮らしていけるかを判断する機会を提供しています。

今回は、4期生としてすみっこ留学に参加している佐藤さんご夫婦についてご紹介し、南大隅町における移住検討の一例をお見せします。
移住から始まる「第二の人生」
佐藤さんご夫婦が移住を検討し始めたのは、お子さんの自立がきっかけでした。
「それまでも漠然と『田舎暮らしがしたいな〜』という思いはあって、コロナ禍のあたりからイメージはしていたんです。子供が20代になって巣立っていくタイミングで、夫婦での「第二の人生』に向き合うようになりました。そこから、長年勤めてきた電気会社の仕事を辞めて、移住先を探すようになったんです。妻とも相談して、『自給自足の農業をしてみたい』という方向性が見えてきたんです」と裕一さんは話します。

佐藤さんご夫妻が南大隅を訪れたのは、2025年の4〜5月でした。
「鹿児島には何度か訪れていたのですが、南大隅町に本格的に滞在するのは初めてでした。お試し住宅を利用して2週間ほど滞在したのですが、日本の最南端で『何にもない』ところに魅力を感じて。県内の他の地域も回ったのですが、やっぱり南大隅でやってみたいという思いが強くなりました」と道子さんも当時を振り返ります。

さて、移住先が決まったら、次に問題になるのは家探しです。
春の滞在でも、空き家バンクの登録物件を中心に4〜5件回りましたが、なかなか条件に合うものが見つかりませんでした。「次回の来訪を考えていたところ、すみずみ!のスタッフに『すみっこ留学』をおすすめされて。ちょうど私たちも新規就農を目指していますし、農家の方々のもとで働いて現場を見れるのは、まさに渡りに船でしたね」と、裕一さんは笑顔で話します。
現場で学ぶ、地域の暮らし
こうして、7月から始まったすみっこ留学。
今回の受け入れ農家は、バラ農家の富田さん・ミニトマト農家の田淵さん・タバコやスナップエンドウなどの露地栽培を行う池之迫さんの3件です。暑い日差しが照りつける初夏の畑で、佐藤さんご夫婦は日々汗を流してきました。



「おかげさまで仕事には少しずつ慣れてきて、農家の皆さんとお話ししながら楽しくやっています。バラは花を扱ううえでの繊細さ、ミニトマトは商品をお客様に出荷する上での気遣い、葉タバコは体力勝負というように、それぞれキツさのベクトルが違いますが、なんとか怪我なくここまで来ることができました笑」と、ご夫婦は話します。


今年のすみっこ留学では、地元農家だけでなく、「ねじめ温泉ネッピー館」でも仕事を体験できることになりました。ネッピー館の館長を長年勤めている須崎智(すさき・さとし)さんは、このように語ります。
「長年南大隅で仕事をしてきて、『魅力にあふれた地域なんだから、もっとPRしなくちゃもったいない』と感じています。高齢化率が県内トップクラスの南大隅町ですから、放っておいたら人口は減っていく一方です。移住定住の取り組みにはもっと力を入れていくべきだと常々考えてきました。ネッピー館も、観光・宿泊・入浴施設として、積極的に協力していければと思います。」

佐藤さんご夫婦も、ネッピー館で約1週間仕事を体験しました。
「妻は宿泊部屋の清掃作業、私はレストランの厨房で働いています。飲食業は初めてで、ドラマの世界にいるみたいで刺激的ですね。定食メニューのセッティングは覚えることも多くて大変ですが、仕事のあとのまかないや温泉は格別です」と、裕一さんは笑顔で語ります。


「理想の暮らし」を具体化する
そんな佐藤さんご夫婦のすみっこ留学も、7月で前半戦が終了。農閑期の8月はお休みで、9月からは後半に入ります。
「農業については始めは具体的なイメージが持てなかったのですが、少しずつやりたい形が見えてきました。南大隅では年間を通して様々な作物ができますが、池之迫さんとお話ししているうちに、まずはスナップエンドウが有力だと考えるようになりました。自分たちが挑戦してみたいオオムギ栽培と両立しながら、地域の方々に喜んでいただけるような加工品作りにも挑戦していきたいな、とイメージしています」と裕一さん。

物件については現在も検討中ですが、すみずみ!スタッフとの物件見学の中で、少しずつ候補が絞れてきました。
「地元農家の方々も、お住まいの自治会の中で物件を色々と探してくださっているみたいで、ありがたい限りです。9月中に仮住まいでもいいので家を決めて、こちらで本格的に動けるようにしていければいいですね」と、笑顔で顔を見合わせます。


佐藤さんご夫妻にとってのすみっこ留学は、50代からの新たな人生を描く場です。
理想と現実、を実際の暮らしの中ですり合わせながら、下書き状態の未来図に少しずつ色を載せていく。
佐藤さんご夫妻のこれからの暮らしを、地域の皆様も応援くださると幸いです。
(文:大杉祐輔 写真:大杉祐輔・中川夏帆・受け入れ農家の皆様)