一般社団法人 すみずみ!みなみおおすみ

MENU

田舎暮らしの宿敵たち ~古民家とアリ~


2025.11.17

※本記事ではまあまあアリの画像が出てきます。苦手な方は我慢して読んでください。

古民家のアリ対策に向き合う

田舎暮らしといえば、古民家。そう考えている方も多いのではないだろうか。


南大隅町は、ご存知の通り鹿児島県でトップクラスに少子高齢化が進んでいる。どの自治会も空き家が増えており、移住者と空き家のマッチングを中心とした「空き家活用」は、すみずみ!の活動における大きなテーマとなっている。町内にアパートはほとんどないため、一軒家を選ぶ移住者も多いだろう。古民家は家賃も安いし、現実的な選択肢だ。

かくいう筆者・大杉も、おそらく築100年以上の古民家に住んでいる。家賃はなんと5000円/月。鹿児島市内に暮らす大家さんは「タダでもいいんだけどね」とおっしゃっていたが、流石にそれは気が引けるので、5000円でお借りすることになった。

当初は倉庫の屋根が崩れかけていたり、家財や荷物も残っていたそうなのだが、移住前に自治会の方々が畳の入れ替えや土間の床張りを行い、住める状態まで整えていただいた。大久保自治会の皆さんには感謝してもしきれない。

このスペースは土間だったが、大久保の方々が床を張ってくれました

2018年の4月から暮らし始めて8年目になり、「住めば都」という言葉を実感している。だが、実際に暮らしていると、当初は想像していなかった思わぬ事態も発生する。現在進行形で私が頭を悩ませているのが、住居内に侵入してくる「アリ問題」だ。

住居の壁、床の隙間、天井裏など、あらゆる隙間からアリの行列が進行してくる。
家のケーブルや壁などの一面にアリが発生し、最悪の場合、食料を保存している棚の中にも入ってくる。スプレーなどでアリを退治した後の掃除も大変で、日常的なストレスとしてなかなか厳しいものがある。

私も指を咥えて問題を受け入れたわけではない。アリとの戦いに対する経験と観察の積み重ねから、試行錯誤を繰り返し、なんとか折り合いがつくレベルに落ち着きつつある。

そこで今回は、古民家での生活とは切っても切り離せない「虫問題」の一つとして、住宅に侵入してくるアリとの戦い方を赤裸々にご紹介する。今年試したアリ対策グッズの簡易的なレビュー(あくまで筆者が今回使った感想なので、絶対ではない)も紹介しているので、アリ問題にお困りの方はぜひご覧いただきたい。

ゴマ塩に蹂躙された我が家


本当に恐ろしい事態というのは、急にやってくるものではなく、気がつくと進行しているものだ。
アリ問題も、日常の中で気がつくと進行し、ある日を境に我々の生活を脅かす。私の場合は、昨年からそれが発生した。

鹿児島は暖かく、それゆえ虫が多い。家の中には、アシダカグモ・ムカデ・ゲジゲジなど、まあまあデカい虫もそれなりの頻度で現れる。始めのうちはビビりがちだったが、そこは次第に慣れていき、なんだかんだ快適な生活を過ごしていた。

ある6月の昼下がり、私は玄関口である異変に気づく。玄関の柱に、大量のアリが這い回っていたのだ。サイズとしては、学校のグラウンドによくいる4〜5mmサイズの「クロアリ」よりも、1/5くらいのサイズだろうか。それが、ご飯にふりかけるゴマ塩さながら、柱を覆っていたのである(あとで調べたところ、どうやら「ルリアリ」か「クロヒメアリ」のどちらかと思われる)。

見えにくいが、サイズ感はこれぐらい

私は、すぐさま南大隅町民の味方「ホームセンターナフコ」に駆け込み、殺虫スプレーを購入。柱に向かって親の仇のように噴射した。アリたちはピクピクと痙攣し、パラパラと畳へ落下していく。床一面に広がったアリの死骸は、ホウキでまとめると、換毛期の猫をブラッシングした時にできる毛のかたまりくらいの量になった。猫を飼っている方ならわかると思うが、これは相当な量である。小アリの死体の塊からは、なぜか杏仁豆腐みたいな甘い香りがする。謎の豆知識である。

ほっと一息ついたのも束の間、これは悪夢の始まりであった。1時間も経たないうちに、同じ柱にまたゴマ塩が現れたのである

そこからはスプレー・掃除、スプレー・掃除の繰り返し。こんなに対処しているのに、なぜまた現れるのかわからなかった。しかも、数日後には縁側・書斎・トイレ・風呂など、同時多発的にゴマ塩が現れた。私は混乱し、涙を流しながらひたすらにスプレーをかけ続けた。なぜこんなことになったのか。

初めてのアリの侵攻は完全に私の意表を突き、対症療法的にスプレーをかけ続け、気がつくと冬がやってきた。11月中旬ぐらいになると、アリの姿もめっきり見えなくなり、なんとか最初の戦いが終わった。身を切るような寒さの中で、「アリが家の中にいない生活って、なんて素晴らしいんだろう」と、その幸せを噛み締めることになった。

人類の反撃 2025

初年度の戦いは大杉の防戦一方で、大杉宅はアリの群れに蹂躙された。春の陽気が訪れ、ツバキの花が咲き出したころ、私はふと思った。「家の中に入ってくるということは、侵入経路があるはずである」と。

家の中に入ってきたアリは、もはや殺虫スプレーで対処するしかない。しかし、侵入経路を突き止め、初動の段階で対処すれば、屋内への侵入を防げるのではないか。突然のアリの群れの襲来に頭がチンパンジーになってしまった私は、これに気づくまでに半年ぐらいかかったが、今年の方針が決まった。「初動で潰す」、そして「侵入を防ぐ」。2025年のアリ対策は、この2つがテーマとなった。

春先、私は意気揚々とナフコを訪れた。ナフコはいつも悩める住民を迎え入れてくれる。ホームセンターの殺虫剤コーナーには、よく見るとさまざまな種類の殺虫剤が置かれている。私は手当たり次第に薬剤を買い込み、来るべき決戦に備えた。

5月になると、小アリたちが家の周りに少しずつ姿を見せるようになる。昨年の私は、外のアリの様子を観察することなど全く考えていなかったのだが、よく見るとアリの行列が家の軒下に発生している。それが窓のサッシを目指し、今にも入ろうとしているところだった。なるほど、昨年はこんな感じでアリが入ってきていたのである。

ここで先鋒を務めるのは、「毒餌型」の殺虫剤である。アリの侵入経路やよくいる場所に置いておくことで、アリが餌に群がり、巣穴へ毒餌を運んでいく。これによって巣穴中に毒の成分が広がり、一網打尽にできるという寸法である。

私はナフコで買い求めた数種類の毒餌を設置し、経過観察を重ねた。すると、置いてから1〜2時間後には、バーゲンセールに群がる主婦のようにアリが餌に食らいついている

特にアリたちに人気だったのが「アリメツ」で、見るからに甘そうなシロップ状の液体が、アリたちの食欲を刺激する。垂らしてから1〜2分で黒山の人だかり、いやアリだかりができる、非常に人気の商品だった。

私は毎日のように毒餌を仕掛け、アリたちの様子を観察した。その結果、だいたい餌の設置から5〜6日経つと、その場のアリはある程度いなくなることがわかった。しかし、また数日すると復活する。効果は一時的なもので、根絶はけっこう難しいものだということがわかった。

少し拍子抜けではあるが、毒餌で初動を抑えられたのはまあまあ有益で、家に侵入しそうなアリはスプレータイプで殺すことで、6月ぐらいまでは家への侵入はほぼシャットアウトすることができた。さながらタワーディフェンス型のゲームである。人類の叡智を、アリたちに見せつけることができたわけですな。

この記事を作成しているときに気づいたのですが、アリキンチョールだと思って使っていたスプレーの1本が偽物でした。

敗北

しかし、問題はここからだった。巡回による毒餌設置とスプレー散布で対策しているにもかかわらず、それでも屋内への侵入を許してしまったのである。侵入経路は、縁側サッシの、天井に近い窓のあたりだった。

経路を観察すると、人間の日常生活における視野の範囲から外れた、天井近くからの侵入だった。我が家の庭先には、木の枝が家の屋根まで覆っている部分がある。その枝を伝って、人間の目の届かない侵入経路ができていたのである。

こうした部分は、アリが壁を伝って侵入しているため、毒餌の設置が難しい。「アリメツ」のようなシロップ状のものはなおさらである。日常的な見回りの中で、こうした部分にも注目してスプレーを噴射することになった。

目の届かない屋根近くの経路を確認するため、悩める町民のための福祉施設であるナフコでデカい梯子も買うことになった。軽自動車にギリギリ積み込めるぐらいの、かなり大きいサイズである。2万円ぐらいする痛い出費だったが、アリのいない屋内での快適な生活を守るため、血の涙を流して購入を決意した。

だが、こうした巡回も意味を成さない事態が起こってしまう。7月ごろのある日、キッチン周りでアリの行列が発生しているのを発見する。これがなんと、天井裏の小さな隙間から侵入していたのである。

こういう小さな隙間から侵攻してきます

アリという生き物は、一度行列ができると、それを頼りにひたすら進行していく生き物だ。ロケット鉛筆のように、先端部分を殺しても後からまた次がやってくる。経路の入り口は想像できるが、天井裏の行列は、もはやスプレーは届かない。毒餌も設置できない。こうなるともうお手上げである。

さすがに登ってどうにかするのは難しい…

アリとの戦いを通じてわかったこととして、「製薬会社が謳っている忌避効果は全く信用できない」というものがある。「アリの侵入を防ぐ効果がある」と記載されているスプレーは、殺すことはできても忌避にはほとんど効果がなかった。テープ状になったものも試してみたが、これは効果がなかった。薬剤の「忌避効果あり」は、飲み会の誘いへの「行けたら行く」という返しと、重みとしてはちょうど同じくらいと思っていただいてよい。

唯一効果的だったのは、「粉末タイプ」の薬剤である。これは、粉が触れた瞬間にアリを殺すというものであり、忌避というよりは殺虫効果なのだが、結果的にアリの侵入を防ぐことができれば同じようなものだ。玄関口や縁側のサッシなどに撒くことで、アリの侵入をシャットアウトすることができた。しかし壁や天井裏には撒けないので、万能とは言い難い。

結果的には、天井裏からの侵入は、モグラ叩きのように一日3〜4回のスプレー噴射でどうにかして、拡大を防ぐに留めるというのが落とし所となった。これをやるたびにホウキでの掃き掃除掃除もしなくてはいけないのもタチが悪い。

2025年11月現在、寒くなってきてアリたちの動きも落ち着き、暖かい日だけまあまあ行列が見られるという感じになっている。屋内への侵入は続いているが、アリたちの今年の活動はそろそろ潮時であろう。

そして未来へ…

さて、大杉とアリとの戦いのシーズン2が終わろうとしているわけだが、これまでの知見をシェアして本文を締めくくりたい。

古民家における実践的なアリ対策への見解 2025

①隙間はどうにもならないが、対応は可能
・古民家には、至るところに隙間がある。これを完全にどうにかするのはほとんど不可能と言っていい。アリは、どんなに小さな隙間も見逃さずに入ってくる。
→物理的に塞ぐことは難しいが、経路を観察して、薬剤で対応することで、侵入はある程度防ぐことができる。殺虫剤に投資しよう。DIYが得意な方は頑張ってほしい。

②天井裏は無理
・天井裏に入られると、対策の難しさがはね上がる。DIYによって天井の板を外してしまうのが手っ取り早いかもしれない(冬は寒くなるが…)。
→天井裏に入られないように、天井付近に繋がるコード類や木の枝を排除していくのが実践的であろう。

③草刈りをちゃんとしよう
・なんだかんだ毎日のスプレー巡回が一番効果的である。アリの行列を発見しやすくするため、日常的な草刈りをちゃんとしよう(大杉はできていませんが…)。
→今年は試せなかったが、巣穴に直接ぶち込んで巣を壊滅させるタイプの殺虫剤もある。行列の位置はだいたい決まっているので、これができるのがベストかもしれない。

古民家におけるアリは、我々の日常のマメさを試す「小さな試験官」である。小さなスキを見逃さず、日常の手入れが行き届かなくなったタイミングで、生活をかき乱してくる。


逆に言えば、日々の対策を怠らないことで、結果的に家が綺麗で快適になるという、よくわからんがポジティブな捉え方もできるのだ。来年こそはもう少しマシな生活が送れるよう、一旦は冬ごもりに入ることにしよう。

(文・写真:大杉祐輔)

【おまけ:紹介しきれなかった薬剤レビュー】